もう家建てるの止めたい、という気持ちになる時もある

 また喧嘩してしまった。どんどん亀裂が大きくなっていく感じがする。頭の中はグチャグチャ。整理しようとしてもネガティブな感情が噴き出してきて吐きそうになる。辛さや苦しさを夫に訴えたってどうせ届かない。届くのならこんなことになんかならなかった。あの人、自分の気持ちでしか動かない。私の気持ちなんか考えていない。私の挙動を見て「自分が感じたこと」でしか動かない。私の気持ちを考えることなんかしないんだ。

 もし私の気持ちを考えてくれるような人だったら、夫母に「戻ってくるの?」と同居の話を持ち掛けられた時に、私の方を見て「どうする?」といった言葉を掛けてくれただろう。もしくは夫母に「考えさせてくれ」と言っただろう。でも夫にはそれが無かった。私のことなんか見もせず考えもせず夫母に対して「うん」と答えていた。だから私は同居話をしているということに気づくのが遅れた。私が今までどれだけつらい思いをしたか大変な思いをしたか、ということなど考えもせず、自分の考えだけで同居話を進めた。

 そんなエピソードは他にもある。外出先で飲酒して妊娠中の私に運転させることもあった。つわりが酷かったのに、だ。自分が酒を飲みたいから(あと私の代わりに料理作りたくないから)外食に連れ出した。結局流産してしまい、その後子供はできないままだが、現状を思うと、子供はいなくてよかったなと思ってしまう。風邪をひいて動けず「シチューを作ってください」と懇願しても無視された。コンビニに連れ出されて、弁当を食べさせられた。こんな家庭、悲しすぎる。外を一緒に歩けば一人でスタスタと先に行く。私が転んでも気づかない。店に入れば真っ先にシート席に座って寛ぐ。目に付いた所にすぐ座るので私がレジや通り道から丸見えでもお構いなし。入口近くでスース―風が冷たくても気づかない。

 それでも今まで一緒に生活してきた。他にも嫌なことや喧嘩したことなど沢山あった。だけど今回は違う。夫の本質が見えてしまった。「共感」というものが無いのだ。そんなもの上記の話の時点で気づくもんだとは思うのだが、私も馬鹿なので気づかなかった。だから、私も悪い。気づけなかった私も悪い。そして、気づいてしまった今、どうしていいのか分からない。

 とはいえ、その本質は別段珍しいことではないのだと思う。「共感」というものが無いのは何も夫だけではないし、一般的に男性は女性よりも共感しにくいものだとも言われている。私だって別に「いついかなる時でも共感して!」と言いたいわけじゃないし、特に共感を求めていない時だって多い。少なくとも「同感」は求めていない。別に普段の生活の中であれば、それはそれで構わない。そういうものだと、どうにか割り切れるかもしれない。だけど、大事な局面でも自分のことしか考えない・相手の気持ちを考えないというのは、かなりキツイ。

 下手すればこれから一生住み続ける家のことを決めるのに、夫は「どうでもいい」「面倒臭い」を連発し、壁紙を見にショールームに行けば一緒に歩かず寝てるかタブレットでマンガを見ていた。周囲は家族連れが多くて、みんな一緒にワイワイとサンプルを見たりしているのに、私だけ一人。みんな楽しそう、みんな幸せそう。普段は人と自分を比べたりすることなど無いのに、その時だけは妙に悲しかった。だけどその気持ちを呑み込んでショールームを回った。だから私は一人で行きたかったのに。別に一人でも平気だったのに。どうして一緒に行くなんてことになったのか。どうしてついてきたのか。

 帰ってきてから壁紙について聞いても生返事で、突然「うんざりだ」と言われた。「俺がノイローゼになっていもいいのか」と言われた。それに関しては私も悪い。色味について何度も訊いて、それでも全然決められなくて、そういった様子にイライラしたんだろう。いつまで経っても決まらないと思ったんだろう。だけど、じゃあ、私の気持ちはどうなるのか。一人で暮らすわけじゃないから、一生懸命考えていたのに。みんなで暮らす家だから、色々訊いて考えていたのに。全部仇になっていた。もっと早く夫が自分の気持ちを言っていれば、もっと早く「俺は何訊かれても分からないから、訊かなくていい」と言ってくれれば。誰もこんな思いをしなくて済んだのに。

 途中、夫が言っていた。「じゃあ俺が決める。それでいいんだな。全部白か黒にする」と。こういう人だ。人の意見を汲もうとしない。壁紙のことだけはもう訊かれたくない・考えたくないと言っていたが、自分で決めるならいいらしい。そして人の意見は聞かないらしい。もう訊くなと言われてしまったので自分で選ぶしかないが、こんな思いをして建てた家なんて、見るだけで悲しくなってしまう気がする。壁紙を見る度に悲しい思いをするのだろうか。住みたくないな、そんな家。

 ……なんて泣いていても、A社から電話が来ると普通に対応してしまう自分が悲しい。こんな悩み、誰にも相談できない。

 

※2021年4月 加筆修正